不器用なライオン 4




「ソカロ。次はいつから任務?」

「あ?・・・まだ何も言われてねえ。そのうちじゃねーの?」


朝食を採るために食堂へ向かう廊下の途中でソカロに問うと、返ってきたのは適当な答え。

ソカロの教団への滞在次第で私の休暇は決まる。

だから早くわかってくれた方が、実験スケジュールを組みやすいのだけれど。


「そ。」
「ん。」


今から任務かもしれないし、明日かもしれない。


元帥である以上、いつ戦場へ駆り出されてもおかしくはない。
・・・・・・任務が、このまま決まらなければいいのに。

そうしたら、彼に嫉妬しなくて済む。

鉄と血の匂い。
AKUMAたちの笑い声と、それを破壊するエクソシストの戦闘音。
高揚していく気持ち―――

私は、二度と、あの場へ戻れない。


「しばらく任務詰めだったから、
 休暇が長いといいね、ソカロ・・・。」


気遣いの言葉は、自分の本心からでた言葉。


早朝の時間、石畳の廊下は冷えて、

腕を組んで、さすり、少しの摩擦で暖を取ろうとする。

ソカロはカーディガンもクローゼットから放り投げてくれたが、それでもやっぱり冷気が体にまとわりつく。

早く食堂へついて、暖かい食べ物を口にしたい。


「わっ!」
「寒いんだろ。」


腕を引かれて手を握り込まれ、ソカロのコートの、ポケットの中に一緒に突っ込まれ、た。


「・・・、ありがとう?」
「素直に感謝しとけ。」


疑問で返した感謝に、高慢に返すソカロ。

今から食堂に行くのに、この格好は少し恥ずかしいけど、まあ早朝だから人、居ないよね・・・。

言われたとおり、素直に感謝して、素直に受け取った。

こんなに構ってくれるなんて、珍しい。


「なんかあった?」
「・・・・・・、うどんでいいんだろ?」


様子がおかしい、と言葉裏に伝えるが、食堂についたからか、言い淀んだからか、何も聞いていないとスルーされた。

様子が変だ。

いつもはこんなに親切じゃない。

そういえば、お腹が空いたと言った時はいつも止めてくれるのに、今日は随分しつこかった。


「うん。温かいのね。――おはよう、ジェリーちゃん」
「おはよう! あらぁー、ソカロ元帥、いつお帰りになったんです?」
「昨日だジェリー。」


早朝だと言うのに、すでに食堂で仕事をしていたジェリーちゃんに食事を注文する。

繋いだ手をポケットにそのまま入れていたため、それを目ざとく見つけられて、ニヤニヤ、と返された。

やっぱり手、断っておけばよかった。


ソカロと言えば、朝からステーキを注文して、他にも諸々頼んでいる。

胸焼けがしそうになったので、注文内容を途中で聞き取るのをやめた。


「んまぁ、朝から作りがいがあるわぁー! はりきっちゃうんだからねっ」

「できた順から出せよ、コイツが取りにいくから。」
「はいはい。」


食堂はガラガラで、席が選び放題だったが、カウンターから近い席に陣取った。

久しぶりにこの男と食事を一緒に採るが、体力仕事だからか随分と肉ばかり偏っている。

しかしそれでも、聞き取ったまでの注文内容から、以前よりは野菜を採ろうと努力していたので随分と食事状況が改善されたことがわかる。


「じゃ、まずはうどんお待ちどう。」
「わーい あ、卵入ってる。」


ジェリーちゃんの呼ぶ声に、席から立ち上がって料理を取りにいく。

研究職について、めっきり食事の量も食事の回数も減った私を心配してか、栄養価の高い卵が入れられていた。

うどんの量を多くしても、どうせ残して食べないのだから・・・、から来ているせめてもの配慮だとすぐにわかったらしいソカロは、

カウンターから近い席故に聞こえてくる会話に口を出す。


「・・・お前、またきちんと食事採ってないのか。」
「ん? 食べてるよ、1日2食。」


昼はすぐに抜けちゃうから、栄養ドリンクにした、と前の、2日で3食よりは随分と改善された内容だったが、

それでもソカロの機嫌は悪くなった。


「肉付きが悪いからもっと食え。」
「・・・っ! ごほ、ごほっ」


うどんが変なところに入って噎せる。

この男は! 食事中にそんなこと言うなんて信じられないっ


「今でも十分脂肪がついてると思ってるんだけど・・・」
「どこが。」
「そうよそうよっ ソカロ元帥もっと言ってあげて!
 1日2食っていうのもねえ、本当は「ジェリー!言っちゃだめってば!」


箸を置いて、温かいお茶を飲みながら小さく抗議するが、

思わぬところからソカロに対して援護射撃がでた。


「おぃいい・・・ どういうことだぁ? お前ぇ・・・」
「えっ、いやっ、ちゃんと食べてるって!」


ふつふつ怒りのボルテージが上がりはじめたソカロに慌てて弁明するも、

しかし事実を知っている人物がそばに居てごまかせるわけはなかった。


「食事回数は確かに増えたけど、食事の量が少なくって・・・。
 この間なんてカップゼリー1つだったわよ。」


「ジェリー、追加だ。
 コイツが食べられるもの片っ端から出せ。」


「はいはーい」
「うぇええっ、そんなに食べれない・・・」「飲め。」「無茶な・・・、あっ、神田!かーんだー! 助けてっ




無理矢理にでも食べさせようとする人間2人に、拒否する人間1人。

人数的に不利だ、と思い、丁度食堂に入ってきた神田に助けを求める、も。


「あ?・・・なんだアンタか。
 ソカロ元帥、俺はこの間、この人がジェリーの持ってきた昼食に手を着けなかったのをみましたよ。」

「うっ、裏切り者っ!」


声を掛けられて一瞬殺気を放った神田だったが、私だとわかると直ぐに引っ込め、折り返しで敵に回った。


小食仲間だと思ってたのに!


ソカロの料理と、私に食べさせるらしい料理が次々とカウンターに並べられて、

見るだけで胸焼けしそうな量の料理がずらり、と6人掛け分広がった。


「神田、神田も小食だから、これを機会にたくさん食べよう。」
「ふーん」
「お願いです、一緒に食べてください。」
「手伝うなよ、坊主」
「わかってますよ。」


頼んで見ても、隣でいつもの蕎麦を食べているだけで、ちっとも並んだ料理に手をつけようとしない。

いつからそんな無愛想な子になったのか・・・。

自分は肉を頬張りながら、しっかりと神田に釘を指したソカロを恨めしく思った。


・・・・・・、こう見る分には、いつも通りなんだけど、ね。


 

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