不器用なライオン



!事後(中…?)表現、血表現あります!
注意表記の意味がわからない方は読まない方がいいかも…







「だから、お腹空いたんだってば」

ベットの中、背中から腰を抱く腕を軽く叩いて抗議をするも、まったく無視を決め込んでいる男にはなにを言っても無駄だった。
ああ、散々食べられてやったのに、貴方が満足するまで私のご飯は抜きか、そうですか。

帰ってくるといつもこうだ。





無理矢理運動をさせられた後で、汗を洗い流すためにシャワーを浴びる。
元帥の部屋はいいねえ、豪華で。
自分の部屋も同じぐらい改造した身で呟く。
職員用の温泉が教団本部には設置されているが、私は利用しない。
エクソシストの職務に就いていた時は良く利用した、というか、部屋にシャワー室すらなかった。


「あーあ。 痕、消えないな・・・」


シャワー室を無理矢理作ったのは、エクソシストを辞めてからだった。
目の前の鏡に映る、誰かさんが付けた、首筋とかの虫食いの赤くなっている痕なんかじゃなくて、腹部にある大きな痕。
抉られた。千年公に。


「う・・・・・・」


シャワーが体に降り注ぐ。
腹部の抉られた痕を見たら、もう、なんともなっていないのに、酷い痛みを感じる。


「痛くない・・・痛くない・・・」


鏡に片手を付いて呪文を唱える。唱えれば唱えるほど、痛みが酷くなるような気がした。
集中して見るから、痛いと思うんだ。
見なきゃ良い。


「お前また、いつまで浴びてんだ。」
「勝手に入って来ないでよ。」


痛みに耐えれなくなって、鏡をずるずる伝って床へ座り込んだら、何時まで経っても出てこない私に痺れを切らしたソカロが入ってきた。一気に風呂場が狭くなる。


「また余計なこと考えてんだろ、どーせ。
 もう一回、考えないようにしてやるぜ?」
「一回で済むのか、一回で。
 お腹空いたんだから嫌だよ。」


軽口を叩いている間に痛みが収まった。こういうとき、ソカロが居なくなったらどうしよう、なんて変なことをよく考える。こんな弱い私、要らない。


「風邪ひくだろ」
「自分でできるよ・・・」


乱暴にバスタオルを上から落とされて、そのまま抱き上げられる。適当に新しいシーツを敷いたベット上へ落とされて、タオルにくるまった。
視界が白い。
白いタオルだからな・・・あ、お風呂に行った。
耳でソカロの動きを追いつつ、ぼんやりと白い視界を眺める。
お腹すいたな・・・眠いし!

このまま眠ってしまおう。どうせ風呂から出たソカロが髪の毛は乾かしてくれる。

気が弛んで、意識は一気に、闇の中へ。






「追いつめたっ、千年公!」
「困りましたネ。」


廃墟と化している遺跡の中、AKUMAのスクラップと千年公、そして私。
噎せ返る血の匂いの中、宙に浮かんだ千年公に向かって私のイノセンスである、装備型の、鞭『悪女(ダーク・レディ)』を振るう。
風を切り削く音と打撃音、確かに当たった肉を打つ感触。
油断はならない。まだ無事でどこかから攻撃の隙を狙っているかもしれない。
巻き込まれたらしきAKUMAたちの残叫、それから土煙。空気が動く、立って居た場所から飛び退いた。


「いやはや、やはり臨界者に近いものは強いデスネ」
「今日こそっ、今日こそお前を・・・堕とす。」


ニシャリ、と笑って、先ほどの攻撃をAKUMAを盾にして逃れた千年公が土煙の中から
躍り出て、傘で私の居た場所を叩き割った。
文字通り、地面が砕けて巨大な亀裂が走る。


「でーもー? ただ”それだけ”デスヨ。」


避けれた、と思った。
確かに私は避けた。

千年公が地面を叩き割った姿を目で追いかけ
てもいた。


なのになぜ、奴の声が背後から聞こえる?



「危険な芽は早いうちに潰してしまいマショウ。」


思考が追いつかなくても体は危機を感じて、その場から離れようと跳躍ーーー足に力を込めて蹴り出す、まさにそのコンマ差で、


「サヨウナラ、神の使途!」


腹部に、衝撃を感じた。
熱い。


「か、は・・・っ・・・千年こ・・・っ!」


言葉が告げない。口から出た水が、言葉を紡ぐ邪魔をする。
粘着性をもった水、鉄臭い匂いと味。
血?
なぜ?


「ごきげんヨウ」


語尾に音符をつけた千年公が空間の隙間に消えるのをみて、傘が赤く染まっているのをみて、
口を満たす血を吐き出した地面をみて、
それからのろのろと自分の腹をみた。


「はは、は・・・ごほ、っうぇっ・・・げほ、」


立派な風穴があいていた。
腹がない。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いたい、いたいいたいいたいいたい

ぐしゃり崩れ落ちて、自分の血を下敷きに、AKUMAたちの残骸をみて、ああ、自分は死ぬのだと、
腹に穴をあけられて死ぬのだな、と思うと
出血多量で霞む視界の中、記憶が蘇ってーーー「おい、おい、起きろ!」


声が聞こえて、戦場で倒れている、という認識から、
ぼんやりとああ、寝ていたのだろうか・・・夢、か、という認識へすり替わる。


「な、に・・・・・・」
「なにだぁああ? 今にも死ぬ顔してんじゃねえよ。」


闇の中の意識が浮上させられて、目を開くと不機嫌に眉を寄せたソカロの顔がこちらを向いていた。
風呂上がりだからか、腰にタオルを巻いただけの姿で惜しげもなく上半身と足を曝している。


「魘されてたのを起こしてやったんだ、感謝しろ・・・ お前、風邪ひくって言っただろ?」


素っ裸にタオルを被ったままベットで寝ている姿に更に不機嫌になったソカロは、ベットの下に脱ぎ散らかされた服から、自分のカッターシャツを投げてよこした。
まだ夢心地で、ぼんやりしながら顔で受け止めて、ソカロに背を向けてシャツを羽織る。

「・・・そんなに魘されてた?」
「おう。 痛いってな。」


背を向けたまま問うた私に今度はタオルを頭に落としてぐしゃぐしゃと髪の毛を拭き始めたソカロが言った。
すでに半乾きになっているのに、意外とこの男は神経質だな、と思いつつ、腹をなでる。


「お腹空いてるから余計なこと考えてるのかな・・・」
「早く飯にするか。
 朝早ぇえから空いてんだろ。」

この霞かかった思考も、ブドウ糖が足りないからか。
満足するところまで拭き終えたらしいソカロは、タオルを私の頭から取ってベットに落とした。
そのまま私から離れてクローゼットへ足を動かし、適当に服を取り出しては床へ投げる。
私の下着が出てきたあたりで、ベットから重い腰を上げて、床に投げられた服を拾った。


「こっち向かないでね。」
「はぁ? 別の場所で着替えろ。」
「やだ。」


ソカロのシャツを脱いで床へ投げて下着を身に付けながらわがままを言う。
・・・こいつワンピース好きだな。

床に投げられた、ソカロの選んだ服を見て思う。
白を基準とした、七分袖にレース、膝下まであるスカートとレース。
着替えるの楽だから、いいけどさー。

着替え終わって、洗面台へ向かうとソカロもついてくる。


「なんで?」
「髪の毛とかせろ。」
「・・・・・・・・・」


持ち上げていた櫛を、無言のままソカロへ手渡した。
弟子には厳しいくせに、私の世話を焼くのはどこかおかしい。


「・・・よくわからない。」
「あ?」
「なんでもない。」


私が一度死にかけたからか、なんて結論を出してみるけど、その前からこんなんだった気がする。

これが愛情ってやつ・・・

自分を納得させてみようと理由を探してみるも、どこか違う。


私が構って欲しそうにしてるから?

うーん・・・


「煮えきらない顔だな。 どこかクセでもつけたか?」
「いーえ。 もういいよ、ごはん行こ」


なんか納得できないけど、これが一番近い答えかも、と無理矢理納得して答えをだした。
そのうち、またゆっくり考えよう。


すっかり梳き終わったのに未だ髪の毛をいじるソカロの手を掴んだ。



 

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