大きなため息の音が聞こえて、その方向へ鎮座しているであろう魔人の大きすぎる気配を読んで顔を向けた。

ため息をわざとらしく大きく、これ見よがしく聞こえるように付いた時は暇である、という壮絶なアピールである。



「暇だ。つまらん。何か面白いことをしろ。」

「…… では今からラッパを七回鳴らし「それは前にもやっただろうが!」



慌てふためく物質界の連中を見るのも飽きた!

もっと面白いことをしろ、と要求を突きつけられても、しかし自分には余り持ち手があるわけでもないので途方に暮れる。

尊敬する偉大な父のために自分も他の兄弟たちと同じよう、役に立ちたいと思うが、現実はそうもいかない。



「困りましたね。 うーん、しかし父上、私の持ちネタは既に尽きていますので、他の者に期待してください。」

「ごちゃごちゃ煩せぇなあ…… お前目隠しとって物質界でも散歩してこいよ。」

「近所に買い物に行くのではないのですから、そう気軽に言わないでください。」



言いながら魔人の気配が傍に寄って、私の目の上に巻かれている布を指でなぞる感覚がした。


目隠しの下には、我が忌まわしき瞳。

父の触り方にしては、随分と緩く触るのでいつ抉られるかとひやひやしながらも平常心を装い話す。


「いいから行けって。 ぜってぇ面白いと思うぜぇ? 俺が。」

「物質界から生物が居なくなってもいいんですか?」

「それも、面白れぇな。 どうせまた作るだろ、奴が。」


私の目をみたものは皆、石になってしまう。

力を抑えることもできるが、疲れるのであまりやりたくはない。
 

ゲラゲラゲラ、と笑った魔人は布をなぞっていた指に力を入れて、目隠しを破り取った。

急に入ってきた光に暗闇に慣れていた目が眩む。細めている目の先で、久しぶりに見た魔人がニタリニタリと笑っていて、

父が愉しそうにしているのならまあ、素顔のまま上で過ごしてもいいか、と思う。

メフィストあたりに小言を散々言われそうだな。


「ではご要望道理少し散歩でもしてきます。」

「おう行って来い。」

「土産はなにがいいですか?」


創造主たる父が私程度の力で石になるはずもなく、普段と同じように会話を交わす。

父がやれ、と言ったのだから、行動しなくてはならない。

一度機嫌を乱すと、100年程度は動けない体にされてしまう。


「物質界」「以外で」

「チャレンジしてみろって!」「父上に無理なのだから、私に出来るわけがないでしょう」

「つまらんやつだな」「今更ですね。 …… では物質界を手に入れたら戻ってきます。」


そう言うと思いましたよ、父上。

そんな気軽に手土産にできたら、とっくの昔に物質界を手に入れているに決まっているじゃないですか。

半ば本気で言っているのだろう、父は何時もの笑いはどこへやら、真面目くさった顔をしている。

いつまでたっても父は子供のようだ。いつもいつも、自分の暇を潰せる何かを探している。


「俺には見えるぞ、器が無くて結局何も出来ないお前が!」

「そう思うのなら、散歩を別の者にさせてくださいよ。…… アスタロトのペットとか。」

「人間が死ぬだけで何も面白くないだろうが。 ああああ?

 それにアイツ拗ねんだろ。」

「拗ねてませんよ、いじけてるだけです。」


暇を持て余した父上のために、少し前にアスタロトを脅しつ……、友好的交渉の末、物質界に奴のペットを放逐したが、

祓魔師に封印させられて帰って来れなくなったので暫く父に会いたくはないと此処最近顔を見ていないのを思い出した。

アイツは年中反抗期なのだ。


「同じだ同じ! ったくお前らよぉ… もう少し俺を敬え?」

「十分敬ってるじゃないですか。土産で物質界請求されて頑張る程度には」


敬って欲しいだなんて欠片も思っていないくせに、よく口から出せますねその言葉、と付け足して言えば、

愉しそうに言葉をつむいでいた口が牙を向いて纏う炎が強くなった。


「マジで土産もって来なかったら 燃やす からな 

「分かっています、父上。 


 全てをあなたに。」


歯を見せて暗く笑った父の炎に、ゆるりと体を纏われて心地いい。

父の傍を離れるのは寂しいが、他の兄弟たちのように私も親離れをしなくては。


青い炎にどうしても、惹かれてしまう。



あ、父の世話を全部アスタロトに押し付けておかないとな。

機嫌よく周囲の悪魔に炎を燃え移し始めた父を見ながら思った。




(後悔はしていない! サタン大好きっ子/中性/兄弟の中で初めの方に生まれた子)


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